生涯現役のライターをめざすならノートと鉛筆を使おう

生涯現役〉に憧れます。「アーリーリタイア」という生きかたが持てはやされることもありますが、サラリーマンが定年を迎える前に前線から退く。「アーリーリタイア」にはそんなイメージがあります。フリーランスに定年はないのですから、〈生涯現役〉で仕事をしてもいいはずです。

一方で、「ほんとうに〈生涯現役〉でいられるかしら?」という不安もあります。

ライターが〈生涯現役〉でいるためにはどうすればいいのでしょうか? 今回はこの問題を考えます。

プロフェッショナルは自分の身体で仕事をしている

プロフェッショナルの中に〈生涯現役〉で亡くなる人たちがいます。たとえば、有名な俳優や芸術家などの訃報を見聞きすると、「ああ、この人は〈生涯現役〉だったんだな」と感心することが多々あります。スポーツはくわしくないのですが、レスラーなども長く活躍する人が多い職業だそうです。

翻って、ライターはどうでしょう? 〈生涯現役〉の生きかたは可能なのでしょうか?

じつは「必ずしもそうではないかも」というのが今回の問題提起です。

経済的な理由、すなわち「ライターで食えなくなる」ことで現役から退くケースもあるでしょう。ここで考えたいのはそういう話ではありません。

先に挙げた俳優や芸術家、レスラーは、それぞれ職業は別でも共通点があります。

それは「仕事の道具がみずからの身体である」こと。

レスラーはまさに自分の肉体が武器でしょう。俳優も自分の身体を使って表現するのが仕事です。芸術家は、筆や絵の具、キャンバスといった道具を使っているでしょうが、仕事の核心は頭脳から生み出されるアイデアだったり、インスピレーションだったりするはずです。

ここに〈生涯現役〉で生きるためのヒントが隠されているのではないか? と思うのです。

〈生涯現役〉の人はパソコンに頼っていない

現代の仕事は、パソコンを使って行なうのが主流となっています。ライターも例外ではありません。でも、近年〈生涯現役〉で亡くなる人でパソコンをメインで使っている人は少ないように思います。

パソコンはまったく使っていないか、使っていても連絡手段としてメールをやりとりするぐらい、という人が多いような気がします。

つまり、〈生涯現役〉でいるためには、「仕事の道具のメインは身体、サブがパソコン」でなければならないようなのです。

たとえば、〈生涯現役〉で亡くなったアニメ監督の高畑勲氏は、手書きのノートや絵コンテが仕事の中心でした(ちなみに、監督の机にはパソコンも置いてあり、一部の作業には活用していたようです)

なぜ、〈生涯現役〉で亡くなる人は、パソコンは仕事の中心ではなかったのでしょうか。

真っ先に浮かぶ理由としては、一般的にパソコンが仕事の道具として使われるようになってから、20年ぐらいしか経っていない点が挙げられます。

〈生涯現役〉で亡くなる人は、これまで40〜50年にわたりその仕事をやりつづけてきたわけですから、パソコンを使わずに仕事をしてきた期間のほうが長いはずです。パソコンなしで仕事を行なうスタイルが確立されていた。パソコンはまったく使わないか、サブとしての使い方にとどまる。それでも、しっかり結果を出せた、ということでしょう。

では、いまパソコンをメインで使って仕事をしている人が、数十年後に死ぬまで使いつづけることはできるでしょうか。できるなら、パソコンをメインに使いながら〈生涯現役〉をめざせそうです。

でも、残念ながらそうはならないのでは? という疑問があるのです。

明日パソコンが使えなくなっても仕事ができる?

仕事の道具のメインがパソコンになっている。これは、「〈自分〉が〈パソコン〉を使って仕事をしている」のではなく「〈パソコン〉が〈自分〉を使って仕事をしている」状況だと私は考えています。

これをもう少しわかりやすくしてみます。かりに明日からパソコンが使えなくなっても、その仕事が成り立つか? という話に置き換えてみましょう。一時的に使えなくなるのではなく、(あくまで仮定として)パソコン禁止令などが出されて、将来にわたってパソコンで仕事ができなくなる事態を想定してみます。

たとえば、俳優がそんな事態に陥ったらどうでしょう? 仕事にはほとんど影響はなさそうです。芸術家も(パソコンをメインに使って創作をしていないなら)活動を続けられそうです。

では、ライターはどうでしょう?

ほんの少し前まで、文章を作成するのに原稿用紙が使われていました。私がプロになったころ、すでにワープロで執筆するのが主流になっていましたが、まだ原稿用紙で入稿する著者も珍しくありませんでした。私自身、ふだんはワープロを使っていましたが、校正紙に添付するサシカエ原稿などは、手書きの原稿用紙を使っていた時代もあります。

現在、原稿用紙を使って仕事をしているライターはほとんどいないでしょう。ライターは、俳優や芸術家とは異なり「仕事の道具のメインがパソコン、サブが自分の身体」になってしまっているのです。

未来の“パソコン”を使いこなせるか?

ライターを含めたビジネスパーソンにとって、パソコンが仕事のメインの道具になるなど、20年前に現実味をもって予想できた人はほとんどいなかったはずです。最近では、パソコンに加えて、スマートフォンやタブレットなどを仕事に活用する人も増えてきました。これも20年前どころか10年前には想像すらできなかったでしょう。

では、いまより技術が発達するであろう数十年後、仕事の道具はどうなっていくのでしょう? いまのパソコンやスマートフォンが使われつづけるかもしれません。あるいはまったく別の、いまは想像すらできない新しいデジタル機器が発明され、それが仕事に使われるようになっているかもしれません。

たとえば、スマートフォンのように端末を持ち歩くのではなく、脳にチップを埋めこんで、脳から直接インターネットにつながるようになるかもしれません。頭で考えるだけで検索でき、モニターがなくてもサイトを閲覧できる。そんな未来がやってくるかもしれないのです。

仕事の道具が時間とともに進化するのに反比例するように、私たちの身体機能は衰えていきます。

かりに脳にチップを埋めこみ、それを仕事の道具として使うようになったとします。衰えた身体(脳)で、それをうまく使いこなせるのでしょうか。そもそもチップの埋めこみには、「60歳以下」などの年齢制限が設けられるかもしれません。

将来、パソコンやスマートフォンが脳のチップに置き換わったとします。脳のチップは老人の脳では使えないとしましょう。そう仮定すると、いまのパソコンをメインに使って仕事をしている人は、パソコンのカタチが変われば仕事はつづけられなくなります。かといって、未来のパソコンにあたるデジタル機器(脳のチップなど)を使って仕事をすることもできない。その結果、お払い箱にされてしまう。そんな悲劇も想像できるのです。

ノートと鉛筆はAIには使えない

「AIに人の仕事が奪われる」。そんな未来像が取り沙汰されています。これは見方を変えると「パソコンをメインで使っている人の仕事がAIに奪われる」と考えることもできそうです。

先に述べたように、「パソコンをメインで使っている」のは「〈パソコン〉が〈自分〉を使って仕事をしている」のとおなじです。〈自分〉よりAIのほうが合理的ならば、両者が置き換わるのは必然であるわけです。「〈パソコン〉が〈AI〉を使って仕事をする」ほうが合理的に決まっています。

では、そんな事態に私たちはどのように対処すればよいのでしょうか。どうやって〈生涯現役〉をめざせばよいのでしょう?

これまでの考察から、必然的に「仕事の道具としてパソコンをメインに使わない」という答えが導き出されます。

ライターを例にとれば、かつてのように「原稿は原稿用紙に書く」のも有効かもしれません。ただ、いまは原稿用紙に書いた原稿で入稿を受けつけてくれるケースはまずないでしょう。

であれば、まずは原稿用紙に文章を書き、それをあらためてパソコンに打ちこむ方法が考えられます。ただ、入稿は問題ないでしょうが、時間がかかりすぎてやはり現実的とはいえません。

そこで、こちらの記事でも提案したように、仕事の核心となる部分に、みずからの身体を使う、つまり手書きの作業を導入すればいいのです。

ライターの仕事の核心部分とは、過去の記事で述べたように、じつは「文章を書く」作業ではありません。「何をどう書くか」を考える部分なのです。

一連の作業の核心となる部分、全体を概観し方向性を考える作業に手書きを導入すればいいわけです。

ライター以外の職業の人も考えかたはおなじです。たとえば、問題の発見や目標設定、長期的なスケジューリングなど、自分の仕事を俯瞰するような作業はパソコンよりも手書きが向いていると思います。個人的な経験では、ノートにペン、あるいは鉛筆で書く方法が最適です。

「考える」のは、みずからの脳を働かせる行為です。ノートやペンは、サブとして使うだけ。メインの道具は身体なのです。

「考える」作業はAIにはまかせられません。パソコンに使われるモノとしての〈人〉ではなく、仕事の主体としての〈人〉が担う部分だからです。

将来、私たちが老いて未来のパソコンを使いこなせなくても(たとえば脳にチップを埋めこめなくなっても)、仕事の核心部分をみずからの身体で行なっていれば、時代に取りのこされることなく、〈生涯現役〉でいられるのではないでしょうか。

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