インタビュー中のメモは〈手書き〉と〈録音〉のどちらがいいか。こちらの投稿で、〈手書き〉のほうがメリットが大きいと述べた。
同時に、〈手書き〉には下のようなデメリットがあると考察した。
- 相手の話すスピードに、書くのが追いつかない
- メモを書くのに意識がいってしまい、話に集中できなくなる
今回は、このデメリットを解消し、〈手書き〉のメリットを最大限高める方法を考えてみる。
この記事の内容
〈手書き〉メモだけで原稿は書ける
まずは、下の画像を見てほしい。
これは昨年(2018年)8月、有名私立大学の副学長に「大学のグローバル教育」についてインタビューした際、実際に私が〈手書き〉したメモだ。なんと書いてあるか読めるだろうか?
「ところどころ読める」「まったく何が書いてあるかわからない」「字が雑すぎる」などといった感想をお持ちになると思う。
じつは書いた本人である私も同じ。ほとんど読めない(笑)。でも、「何が書いてあるか」はわかる。
どういうことか?
その種明かしをする前に、この〈手書き〉メモについて説明する。
〈手書き〉メモのデメリットは、前述のとおり
- 相手の話すスピードに、書くのが追いつかない
- メモを書くのに意識がいってしまい、話に集中できなくなる
だと一般的に言われている。
このデメリットを解消するのは簡単。
- 相手の話すスピードに追いつくくらい速く書く
そして、速く書くためのポイントは下の2つ。
- 殴り書きで書く
- キーワードや断片的な内容だけを書く(きちんとした文章にしない)
この方法でメモをとれば、つねに下を向いている(書き続けている)わけではないので、
- メモを書くのに意識がいってしまい、話に集中できなくなる
という心配もない。話の内容を書き留めながら、相手のほうを見てあいづちを打ったりすることは十分に可能なのだ。
「いや、だから、メモが読めなければ原稿が書けないでしょ?」
ところが、これで原稿は書けるのだ。
下の画像をご覧いただきたい。
これは、上の〈手書き〉メモをもとに原稿に起こしたもの(実際にメディアに掲載された文章)の一部だ(固有名詞はぼかしてある)。
ちなみに、このインタビューにおいては録音データやそのテープ起こしを利用していない。原稿を書くのに使ったのは上の画像にある〈手書き〉メモのみ。
なぜ、原稿を書けるのか? 〈録音〉派の人は疑問に思われるかもしれない。
そこに、〈手書き〉のデメリットを解消し、メリットを最大限高める秘訣が隠されているのだ。
〈脳〉からインタビューの内容を引き出すテストをしてみよう
別項において、こう述べた。
少し話は飛躍するが、私は〈手書き〉のメモというのは、〈紙〉に相手のコトバを記録しているのではなく、自分の〈脳〉に刻みつけているのだと考えている。インタビューの内容は〈脳〉が覚えている。〈手書き〉のメモは、それを引っ張り出すための“トリガー”にすぎないのだ。
そう。インタビューの内容は、紙というより〈脳〉に記憶されているからこそ、文字そのものが読めなくても、インタビューの内容を再現することが可能なのだ。
〈手書き〉のメモことを〈トリガー〉と呼ぶことにしよう。
「インタビューの内容を〈トリガー〉で再現する」という点がいまいちピンとこない人もいるかもしれない。
ここで、簡単なテストをしてみる。お手すきの方はお付き合いいただきたい。
【テスト1】音声だけでインタビュー記事を書いてみよう
下の音声は、「不思議な体験」について聞いた架空のインタビューだ。まずは音声のみを聞いてほしい(再生時間は約20秒)。次に、話の内容を思い出しながら、インタビュー原稿を書いてみていただきたい。もちろん、あくまでテストなので書き方は自由。肩の力を抜いて気軽に取り組んでほしい。
どのくらい書けただろうか? 私も挑戦してみた(音声データは自分でつくったものだが、「自分がテストを受けたとしたら」という想定で書いてみた)。
高校生のときに不思議な体験をしました。学校からの帰り道、空にUFOが浮かんでいるのを見たんです。それは『インデペンデンス・デイ』のUFOみたいに巨大なものでした。
ちなみに、音声データの正確な内容は下記のとおりだ。
私が高校1年生だったときの話です。その日は、文化祭が終わって学校から家へ帰るところでした。西の空にUFOが浮かんでいるのが見えました。それは映画の『インデペンデンス・デイ』に出てくるような巨大なUFOだったんです。
私の原稿では、「1年生」「文化祭」「西」といった情報が抜けている。それらの情報は記憶できなかったのだ。『インデペンデンス・デイ』という映画のタイトルを正確に書けたのは、この映画を知っているからで、そうでなければダメだっただろう。
みなさんの原稿はどうだろう? 「だいたい同じような感じ」「もっと正確に書けた」「まったくダメだった」とさまざまだと思うが、もちろん結果は重要ではない。ここでは、「音声を聞くだけでは記憶に残りにくい」ことを実感してもらうのが目的だ。
では、〈トリガー〉があると、どのくらい〈脳〉は機能するのか? これも実験してみよう。
【テスト2】穴埋め問題にチャレンジ
下の音声データは、「高校時代の想い出」について聞いたもの。まず、同じように話を1回だけ聞く(再生時間は約20秒)。音声を聞いたあと、下の問題にお答えいただきたい。今回は原稿に起こす作業は不要だ。
それでは、問題。下記は音声の内容を書き起こしたものだ。【A】~【B】に当てはまるコトバを答えてほしい。
センパイは【 A 】を弾くのが上手でした。その日も、【 B 】にあるベンチに座って何かの曲を弾いていました。「それは何という曲ですか?」と聞くと、センパイは「【 C 】で、まだタイトルは考えていないんだ」と答えました。
答えられただろうか? 正解は下記のとおり。
【A】ギター
【B】校庭
【C】自分のつくった曲
全問正解だった人、1つわからなかった人など、これもさまざまだと思うが、先ほどのテストよりは、インタビューの内容をよりくわしく思い出せたのではないだろうか。
〈トリガー〉があると〈脳〉から記憶を引き出しやすい
というのを実感していただければ幸いだ。
私たちはふだんから〈トリガー〉を使っている
〈トリガー〉というもっともらしい名称をつけたが、あなたも〈トリガー〉でメモをとる行為は、ふだん何気なく行なっている。
たとえば、仕事のミーティングでメモをとるとき。メモ帳に話の内容を一字一句、寸分の漏れなく記録してはいないはずだ。
メモの内容は、上で画像を掲載した〈手書き〉メモと同じように
- 話についていけるくらいの速さで書いている
- キーワードや断片的な内容を記録している
と思う。それでも、仕事に支障なく機能しているはずなのだ。
例を挙げてみる。メモ帳に下のような書き込みがあったとする。
6/4 A社ミーティング プロジェクター
これだけでは、なんとなく意味は想像できるが、正確な内容まではわからない。「6月4日に行なわれるA社のミーティングでプロジェクターを使うから準備する」なのか「プロジェクターを返却してもらう」なのか「プロジェクターの新製品についてのミーティング」なのか。
内容がはっきりしないのは、メモを書いたのが他人だから。本人であれば、上の書き込みだけで正確な内容がわかるはず。でも、「6/4」「A社ミーティング」「プロジェクター」というキーワードから連想したわけではないだろう。「6月4日のA社のミーティングでプロジェクターを準備する」と上司に言われた、あるいは自分で思いついた〈記憶〉が〈脳〉に存在するから、それを〈トリガー〉で引き出した、というわけだ。
このように、インタビュー中でなくても、私たちは仕事の現場で〈トリガー〉を活用しているのだ。
〈トリガー〉をブラッシュアップして〈リマインダー〉をつくる
さて、〈手書き〉メモだけで原稿が書ける、と述べた。じつはこれには少し嘘がある。原稿を書くのに用いたのは厳密には〈トリガー〉ではない。
殴り書きの〈トリガー〉で〈脳〉の記憶を引き出せるのは、インタビューから時間が経っていない場合だ。
たとえば、インタビューを終えたその日に原稿にとりかかれば、〈トリガー〉だけで仕上げることは十分に可能だ。
しかし、実際はインタビューから原稿作成までに時間が空いたり、別のインタビューが入ってきたりする。そうすると、〈脳〉の記憶は薄れ、精度の低い原稿しか書けなくなってしまうのだ。
それを防ぐために、〈トリガー〉をブラッシュアップする作業が必要になる。そうして作成したものを〈リマインダー〉と呼んでいる。
つまり、
- 〈トリガー〉をもとに〈リマインダー〉をつくる
- 〈リマインダー〉をもとに原稿を書く
という流れだ。
「嘘」は、上の原稿は〈トリガー〉ではなく〈リマインダー〉を参照して書いたという意味。もちろん、〈録音〉データを使っていない点は変わらない。
先の〈トリガー〉の画像をもう一度載せてみる。
下の画像は、この〈トリガー〉をブラッシュアップした〈リマインダー〉だ。インタビューがおわったあと、上の手書きの〈トリガー〉をもとにパソコンで清書した。
〈トリガー〉とは異なり、〈リマインダー〉は少なくとも「何が書いてあるか」は読めるはず。
「そうは言っても、こんな断片的な内容だけでは意味がないじゃないか。相手の話した内容を網羅していない」
そう文句を言いたくなる人もいるだろう。
ここでもう少しだけテストにお付き合いいただきたい。
【テスト3-1】メモをとりながら聞く
下に「旅行のエピソード」について話している音声データがある(再生時間は45秒)。まずは、これをメモをとりながら聞いていただきたい。メモは前述のとおり「殴り書き」「キーワードや断片的な内容を書き留める」を意識してみてほしい。
結果はどうだったろう? 自分でもチャレンジしてみたが、かなり苦労した(笑)。ひとことお断りしておくと、実際のインタビューの現場では、相手がこの音声データのように45秒もの間、一気呵成に理路整然と話すことはほぼありえない。途中にもっと“間”や「えっと……」とか「その……」といった言いよどみがある。だから、メモをとる難易度はもっと低くなる。
さて、下の画像は音声を聞きながら書いた私の〈トリガー〉だ。書いた直後なら“読める”が、このまま時間が経ったら、ほとんど意味不明になってしまうだろう。みなさんのメモも似たようなものだと想像する。
それでは今度はご自分の〈トリガー〉をもとに〈リマインダー〉をつくってみてほしい。手書きの文字をパソコンに入力するということだ。
ここで重要なポイントがある。
〈トリガー〉の文字をそのまま打ち込むのではなく、あとで見返したときに〈脳〉から記憶を引き出せるように、あるていどの意味のかたまりへと膨らませること。もちろん、きちんとした文章にするところまでは必要ない。
その点を意識して〈リマインダー〉をつくってください。
*以下は、実際に〈リマインダー〉を作成してからお読みください。
【テスト3-2】〈リマインダー〉を作成する
私は、下のような〈リマインダー〉を作成してみた。
・彼女と出会ったのは岐阜県
・郡上八幡
・彼女は旅館の娘
・いまは実家を手伝っているけど、もうすぐ東京で仕事
・「どんな仕事?」と聞いたが、「まだ決めていない」
・「あなたは?」と聞かれたので「学校の先生」と答えた
・「すごーい」とうれしそう
もちろん、これが正解というわけではない。〈脳〉から記憶を呼び起こせればいいのだから、極端にいえば、どのような内容であってもかまわない。
では、いよいよ最後のテスト。
【テスト3-3】〈リマインダー〉でインタビュー原稿を書く
上で作成した〈リマインダー〉をもとに、実際に原稿を書いてみてほしい。書き方は自由だ。
*ここからは、原稿を作成したあとにお読みください。
どうだろう? かなり精度の高い原稿が書けたのではないだろうか。
私もチャレンジしてみる。
彼女は岐阜県・郡上八幡の旅館の娘で、仲居として働いたという。そのときは実家を手伝っていたが、もうすぐ東京で仕事をすると話した。 「私は興味がわいて尋ねてみました。『どんな仕事?』。彼女は『まだ決めてない』と答えたんです」 すると、反対に将来の進路について聞かれた。 「『学校の先生だよ』と答えたら、『すご~い』って、うれしそうな顔をしました(笑)」
この原稿は、話し手の一人称ではなく、ライターの地の文に話し手のコトバを挿入するカタチになっている。これもインタビュー原稿の形式のひとつ。それでも、話の主旨は変えていないはずだ。
記事に目的によっては、このように書いたほうが効果的なケースがある。〈リマインダー〉なら記事のテイストを変幻自在に変えられるメリットもあるわけだ。
〈リマインダー〉なら要点の整理が簡単になる
〈リマインダー〉は、相手の話す内容を、きちんと意味のとおる完全な文章で記録したものではない。かなり断片的な内容が列挙してあるだけ。そこに核心がある。
じつは「断片的な内容」こそがインタビューの〈要点〉になっているのだ。
〈リマインダー〉は、余計な情報が削ぎ落とされ、〈要点〉のみが列挙されている。これが、あとで原稿を書く段になったときに、構成を練るための素材として大いに役立ってくれる。
〈要点〉があれば、上記のようにページの目的に合わせて原稿の形式を自在に変えられる。常体(で・ある調)と敬体(です・ます調)どちらにするのが適切か、どの情報を盛り込みどれを捨てれば読者の利益になるか、といった判断をしやすくなる。
〈録音〉のテープ起こしをする場合も、それをそのまま素材とすることはできないのだから、やはり〈要点〉を書き出す作業は必要になる。
〈リマインダー〉を使えば、〈録音〉派が必要とするプロセスをかなり省略できるわけだ。
「〈リマインダー〉を作成するのは、テープ起こしをするのと同じくらい手間や時間がかかるのでは? そうであれば〈手書き〉のメリットはあまりないだろう」と疑問を持つ人もいるかもしれない。
テープ起こしは、インタビューに要した時間の2~3倍はかかるだろう。それに対して〈リマインダー〉は1時間のインタビューなら15分もあれば十分だ。
〈手書き〉は〈録音〉に比べて、パフォーマンスの高い方法であることがおわかりいただけたと思う。
もちろん、原稿のクォリティを高める〈トリガー〉や〈リマインダー〉を作成するには、ちょっとしたコツや慣れは必要だ。それについてはまた機会をあらためて述べたい。
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