フリーランスとして開業しても失業手当が支給される

失業手当

「自分はフリーランスになるから、失業保険なんて関係ない」と思っている人もいるかもしれない。会社を辞めたあと、すぐに〈開業届〉を出そうとしているなら、いったんストップだ。ハローワークに行ってからでも遅くない。

フリーランスとして開業しても失業保険(失業手当・失業給付)を得られる」。この事実は意外に知られていないのではなかろうか(私は退職後の手続きを調べるまで知らなかった)*1

フリーランスとして開業した場合に支給される失業手当は「再就職手当」という名目になる。文字どおり企業に再就職する(雇用契約を結ぶ)ケースが想定されているが、「事業を開始した場合」(法人・個人事業主)にも適用される。もちろん、不正や裏技的な方法ではない。正規に定められている

開業直後は十分に収入を得られない人も多いはず。そんなとき“失業手当”は経済的な安定、ひいてはココロの平穏の助けとなってくれる。おおいに利用したい制度だ。

今回はフリーランスとして開業し“失業手当”を得るためのポイントを紹介していこう。

なお、失業手当の基本的な手続きについては省略させていただく。ぜひハローワークのサイトで調べたり窓口で問い合わせたりして、慎重にコトを進めてほしい。

この記事は、実体験にもとづいて可能なかぎり正確な記述を心がけていますが、手続きを行なう時期や地域によっては運用のしかたが異なる場合があります。前述のとおり、ここで紹介する方法は正規に定められたものであり、適宜ハローワークの職員と相談しながら進めていただくことをおすすめいたします(職員にはしっかりと説明する義務があります)。

*1:ネットで検索すると、「フリーランスになると失業手当はもらえない」などと述べたサイトが見つかる。じつはこれは誤りではない。理由のひとつは、フリーランスへ“失業手当”が支給されるようになったのが2014年以降であること(したがって、記事の更新時期に注意しよう)。

さらに、記事をよく読むと「失業手当はもらえないが、再就職手当はもらえる」という趣旨だったりする。むしろ正確な記述といえるが、混乱のもととなるのも事実だ。この点も注意したい。

失業認定を受けてから開業する

フリーランスとして開業した場合、“失業手当”(再就職手当)が支給されるには、次の要件をすべて満たす必要がある。ハローワークから渡される『雇用保険受給資格者のしおり』(受給資格決定日にもらえる小冊子)から引用しよう(太字は原文ママ)

(1)事業を開始した日(事業開始の準備に専念する場合はその日以降の準備期間を含みます。)の前日までの失業の認定を受けたうえで、支給残日数が所定給付日数の3分の1以上であること。

(2)事業の開始により自立することができると認められるものであること。

(3)「待期」が経過した後、事業を開始したこと。

(4)離職理由により「給付制限」を受けた場合

最初の1か月が経過した後に事業を開始したこと。

(5)過去3年以内の就職について、「再就職手当」、「常用就職支度手当」の支給を受けていないこと。

出典:『雇用保険受給資格者のしおり』

〈開業届〉を出すタイミングに注意する

最大のポイントは(3)と(4)、すなわち事業を始める(〈開業届〉を出す)タイミングだ。

給付制限がない場合

失業手当の図01

会社都合による退職などで給付制限がない場合は、待期(受給資格決定日を入れて7日間)が経過したあと、すぐに事業を開始して(〈開業届〉を出して)構わない。

給付制限がある場合

失業手当の図02

自己都合による退職などで給付制限がある場合は、やや注意が必要だ。

給付制限は3か月間だが、〈再就職手当〉の条件となる事業開始(〈開業届〉の提出)の時機はそれとは異なり、「待期(7日間)+1か月以降」となるのだ。

なお、フリーランスの場合、一般的に「事業の開始」は「〈開業届〉の提出」となるだろう。しかし、上記の時機より前に事務所の賃貸契約や資材の発注、業務委託の締結などを行なってしまうと、その時点で「事業の開始」と見なされてしまう可能性がある((3)の条件を満たさなくなる)

詳細はハローワークに確認してほしい。

事業の継続を証明する

もう1点ポイントとなるのが、「(2)事業の開始により自立することができると認められるものであること」だ。『雇用保険受給資格者のしおり』によれば、次に該当する場合をいう。

イ 受給期間内に雇用保険の適用事業主になること。

ロ イ以外で、法人登記簿謄本(個人事業の場合は、開業届の写し)、営業認可証等により事業の開始、事業内容及び事業所の実在が確認でき、かつ1年を超えて事業を安定的に継続して行うことができると認められること。

出典:『雇用保険受給資格者のしおり』

フリーランスの場合、に該当するケースが多いだろう。そうなると「1年を超えて事業を安定的に継続して行うことができる」ことを証明しなければならない

ここでたいていの人が頭を悩ませるはずだ。「待期後、さらに1か月後に事業を開始するのに、むこう1年以上事業を継続できることをどう証明するのだ? 開業直後にクライアントがいるわけでもないし、未来のことなんて誰もわからないぞ」。

結論を言おう。これを証明するには、〈開業届〉(の控え)をハローワークに提示するだけでいい。実際に私が上記の点を問い合わせときに職員から得られた回答だ。

ただし、地域によっては「仕事の発注書」「事務所の賃貸契約書」などの提出を求められるケースもあるらしい。

くわしい条件はぜひともハローワークの窓口で問い合わせてほしい。

“失業手当”を得るためのプロセス

失業手当の図04

それでは、フリーランスが“失業手当”(再就職手当)を得るための手順を紹介していこう。途中までは、ふつうに失業手当を得る手続きと同じだ。

【1】ハローワークへ行き失業認定を受ける

〈離職票〉を持ってハローワークで手続きを行なう。通常はとくに問題なく失業が認定されるはずだ。

事前のアンケートで「開業の予定がある」かどうか尋ねられる場合がある。正々堂々と「予定がある」と答えて構わない……というより、そう回答しないと虚偽の事実を伝えることになってしまう。

そのあと職員による面談が行なわれるが、事実(開業を予定していること)をありのまま答えればいい。

ただし、建前上はいちおう就職の希望(どんな職種に就きたいか、給与の額など)は申請しておく必要がある。企業に就職しようと個人事業主として活動しようと、今後も仕事をしていくことには違いないのだから、「これからやりたい仕事」を書き込めばいい。書類の体裁を整えたうえで「開業を検討しているので就職は急ぎません」と正直に告げてしまっても問題ない。

フリーランスが〈再就職手当〉を目的としてハローワークを訪れるのは、もはや珍しいことではなく*2、とくに疑わしいことがないかぎり、粛々と手続きを進めてくれるはずだ。

*2:実際にハローワークからそのように説明された。

また、このタイミングで、開業による〈再就職手当〉についても聞いておくといい。「何日以降に開業すればいいか」「どんな資料を用意すればいいのか」など、〈開業届〉を出すタイミングや支給条件などについて疑問点はすべてクリアにし、的確に手続きを進めていこう。もちろん、あとで電話で問い合わせてもいい。

【2】待期(7日間)を過ごす

この期間は失業状態で過ごす必要がある。前述のとおり、この期間に事業を開始する(〈開業届〉を出す)と〈再就職手当〉の要件を満たさなくなってしまう。「事業を開始した」と見なされる行為にも要注意だ。

【3】(給付制限がない場合)開業届を提出する

上図のとおり、給付制限がないなら、最速で受給資格決定日(最初にハローワークで手続きした日)から8日目に〈開業届〉を出せる。下の【4】【6】は省略可能だ。→プロセス【8】

【4】「職業講習会」に出席する

給付制限がある場合、さらにいくつかのタスクがある【4】【6】はふつうの失業手当の手続きと同じ)

まず、初回の失業認定日の前に「職業講習会」に出席する必要がある。ハローワークの利用方法などの説明が行なわれる。

初回の失業認定を受けるには、1回以上の求職活動が必要だ。この「職業講習会」へ出席すれば「求職活動」を1回行なったことになる。所要時間は1時間程度なのでぜひ出席しておこう。

【5】「雇用保険説明会」に出席する

失業手当の手続きについて、さらにくわしい説明が行なわれる。ここで「雇用保険受給資格者証」を渡されるので、必ず出席しよう。

「雇用保険受給資格者証」は今後の手続きに必要となる重要な書類だ。たとえば国民健康保険の減額手続きなどにも使われる。必ず受け取っておこう。

【6】初回の失業認定手続きを行なう

【4】の「職業講習会」に出席していれば、支給条件はクリアするはず。決められた日時に来所しないと問題が生じるので注意しよう。

【7】(給付制限がある場合)開業届を提出する

上図のとおり、給付制限がある場合、待期(7日間)+1か月後以降に〈開業届〉を提出する。

【8】〈再就職手当〉の手続きをする

税務署に〈開業届〉を提出したら、〈開業届の控え〉を持ってそのままハローワークへ行き、〈再就職手当〉の手続きをしよう。

のちに述べるように、〈再就職手当〉は早く手続きするほど支給額がアップする。

〈再就職手当〉の申請は、事業開始日の翌日から1か月以内となっている。「事業開始日」は〈開業届〉の「開業年月日」で判定される*3。

*3:「書類を提出した日」ではない点に注意したい。逆に考えると、「事業開始日」をあるていど自分で決められることになる。私の場合、実際の提出日から1週間ほど早い日付を「事業開始日」としている(あまり早い日付にしてしまうと、条件を満たさなくなってしまうので注意)。ただし、「事業開始日」の判定はハローワークによって異なる可能性もあるので、窓口で確認してほしい。

なお、このとき「雇用保険受給資格者証」を返却する。上記の「国民健康保険の減額手続き」は〈開業届〉を提出する前に行なっておくといい*4

*4:自治体にもよるが、「国民健康保険の減額手続き」は「雇用保険受給資格者証」の原本が必要になる。

【9】〈基本手当〉が支給される

事業を開始する前日までの〈基本手当〉が支給される(銀行口座に振り込まれる)。手続きからおおよそ1週間後が目安だ。

【10】〈再就職手当〉が支給される

〈再就職手当〉が支給される(振り込まれる)のは、【9】の〈基本手当〉とは別のタイミングになる。こちらは1か月後が目安だ。

ハローワークによっては、支給前に電話による確認(事業を続けているかどうか)があるようだ。

〈再就職手当〉が支給されるかどうかは、審査ののち、郵送で通知される。

*私の場合、〈基本手当〉が2日後、〈再就職手当〉が2週間後に振り込まれた。事前の説明よりかなり早いタイミングで実行されたことになる。また電話による確認も受けていない。通知は郵送されてきたが、振り込みを確認したあとだった。

いくら支給されるのか? 支給額を計算する

〈再就職手当〉の支給額はいくらになるのか? もっとも気になるところだろう。〈再就職手当〉は、開業前日までの失業認定を受け、基本手当を受給したうえで、残っている日数から支給額が決まる

計算式で表わせば以下のようになる。

失業手当の図03

〈基本手当日額〉や〈支給残日数〉は「雇用保険受給資格者証」で確認できる。

最後の乗算(60%・70%)は、〈所定給付日数〉(これも「雇用保険受給資格者証」に記載)の3分の2以上を残して開業した場合は70%、3分の1以上の場合は60%となる。

たとえば、〈基本手当日額〉4,000円〈所定給付日数〉270日の人が、受給資格決定日から50日目に開業したケースで計算してみよう。

上記の式のうち〈基本手当日額〉はわかっているので、〈支給残日数〉を〈所定給付日数〉と開業日から求める。

待期は7日間(受給資格決定日を含む)なので、開業前日(49日目)までの〈基本手当〉の支給日数は49-7=42日分になる。したがって、〈支給残日数〉は

〈所定給付日数〉 − 〈基本手当〉支給日数 = 270日 − 42日 = 228日

となる。

〈支給残日数〉228日は〈所定給付日数〉の3分の2以上であるから、最後に70%をかける。

以上の数値を上図の式にあてはめると、〈再就職手当〉は

〈基本手当日額〉 × 〈支給残日数〉 × 70% = 4,000円 × 228日 × 70% = 638,400円

と計算できる。

上図の式からもわかるとおり、手続きは早ければ早いほどお得だ

開業のタイミングが遅すぎると、〈支給残日数〉がなくなり、〈再就職手当〉が支給されなくなってしまう。

善は急げ。手続きはすみやかに済ませよう。


失業手当や〈再就職手当〉のしくみはやや複雑だ。基本的な事項を頭に入れたうえで、随時ハローワークの職員と相談しながら、しっかりとスケジュールを組んで手続きをしていってほしい。

くどいようだが、ここで紹介した方法は正規の手続きであり、不正や詐欺的な要素は一切含まれていない。正々堂々とコトを進めていけばいい。

支給額は人によって異なるわけだが、経済的な保証のないフリーランスにとって、けっして軽視できない金額になるはずだ。

せっかく正規に用意されている制度なのだから(原資の一部は自分たちが収めた保険料だ)、大いに利用させていただき、今後のフリーランス活動に役立てよう。

ハローワーク・サイトの参考ページ
雇用保険手続きのご案内
雇用保険の具体的な手続き
就職促進給付(再就職手当)
再就職手当のご案内(PDF)
*開業による〈再就職手当〉については、『雇用保険受給資格者のしおり』(受給資格決定日にもらえる小冊子)でもくわしく説明されている。

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