読者をとらえて放さない工夫に全力を注ぐ
雑誌の創り手は「読者に雑誌を手にとらせ記事を最後まで読んでもらうには、どうすればいいか?」をつねに考えています。読者を引きつける書き出し、読み手を飽きさせない魅力的な表現、情報を的確に伝える論理的な文章……。気をつかうべきところは多岐にわたります。
また、情報を掲載するページやスペースには限りがあります。伝えるべき内容を誌面にきっちりおさめることも必要です。そのためには膨大な情報を整理し、優先順序をつけて取捨選択、的確な展開のさせかたに腐心します。こういったきめこまやかな配慮がコンテンツの質を高めていくわけです。
雑誌を読む側は、創り手のこういった苦労はあまり意識しません。むしろ意識させないのが良いコンテンツでしょう。「気づかないうちに最後まで読んでしまった」。それが理想なのです。
シェフの苦労ではなく、あくまで料理そのものに着目させる。お客さんにはなにも考えずに味わってもらう。良い文章や表現とは、そんな気取らない料理のようなものといえます。
ウェブコンテンツこそ情報を魅力的に表現しなければならない
ウェブメディアには、雑誌メディアのように掲載スペースに制限はありません。だから、無限に情報をつめこめる。そこが雑誌とウェブコンテンツの違いである、とよく言われます。一面の真実でしょう。
しかし、じつはウェブメディアにも制限はあるのです。それはなにか? ずばりユーザーの〈時間〉です。どんなにたくさん情報をつめこんでも、ユーザーにそれを読むだけの時間を割いてもらえるとは限らない。コンテンツの質が低ければ、たやすくページは閉じられてしまうでしょう。とくにそれが無料で提供されているものならなおさらです。
ユーザーの限られた〈時間〉に情報を的確に伝えるには、雑誌メディア以上に文章や表現に気を遣う必要があります。
ユーザーを引きつける書き出し、魅力的な文章、わかりやすい展開。雑誌メディアの記事づくりに必須の要素は、ウェブコンテンツにおいてもまた重要なのです。
私の〈文章〉体験談
10年以上前の話です。新人声優さんのプロモーション・ビデオ撮影に密着取材を行ないました。
取材そのものは無事に終え、原稿もスムーズに仕上げたのですが、編集者から「なんかおもしろくないのですが、どうしたらいいでしょう?」と相談されました。ようするに原稿に対するダメ出しです。
読者の興味をひくであろう撮影の様子や声優さんのふるまいはしっかり伝えており、情報に過不足はありません。写真もプロのカメラマンが撮っていますし、誌面でもそれを効果的にレイアウトしていますから、ビジュアルも楽しめるものになっているはずです。
ほかの能力はともかく、ライターとして〈文章〉には絶対の自信を持っていたので、精神に少なからずダメージを受けてしまいました。
「う~む、これは困ったぞ……」
しばらく頭を悩ませて、あることに気がつきました。元の原稿は常体(だ・である)で書かれていました。そこに原因があることがわかったのです。
早速、敬体(です・ます)に書き直してみました。盛り込んである情報はそのまま。たんに文体を変えるだけです。
じつに簡単な改修でしたが、たったそれだけのことで、みるみるうちに原稿が輝きだしたのです。編集者からも「すばらしい」との評価をいただきました。
もともと楽しい企画なので、誌面の面白さはあらかじめ保証されていたはずなのです。
「最初から敬体で書けばよかった」と反省しました。プロフェッショナルなら文体による印象のちがいにも気を配るべきだったのです。まだまだ修業が足りなかったといえるでしょう。
おなじ情報でも書き方ひとつで読者の受ける印象は変わる。“良薬口に苦し”の経験となりました。
*声優界も浮き沈みの激しい世界だと聞きますが、そのとき取材した声優さんは現在も活躍されています。彼女が出演する作品で声を耳にするたび、この苦い経験を思い出すとともに、自分もがんばろう! というキモチになります。