伝えたい想いをデジタルなコンテンツにのせる

コンテンツの送り手も受け手も〈人〉であることを忘れない

「どうしても伝えたい」という想いが良質なコンテンツをつくる

雑誌制作において、〈企画〉を考えるときに念頭に置くのは言うまでもなく「どうすれば雑誌が売れるか」です。これは一見すると、自分たちの利益のみを追究しているように見えます。しかし、「読者にとって有益な情報が載っている」→「だから買う」という流れを考えれば、コンテンツの〈送り手〉と〈受け手〉の利益は一致するはずです。

「どんな記事を載せれば読者に買ってもらえるか」。これは雑誌の創り手がもっとも時間と労力をかけるテーマです。マーケティングのデータを収集・分析し、編集部で(ときには外部のスタッフも交えて)徹底的に議論します。

一方で、優れた〈企画者〉ならば、「この情報だけはどうしても伝えたい」という想いも抱いています。それは、必ずしもマーケティングのデータや売り上げの数値だけでは測れません。ともすれば、経済的な利益にはつながらないこともあります。けれども、創り手の「この情報には価値がある」という信念が良質なコンテンツづくりには欠かせないのです。

企画力のイメージ01

デジタルなコンテンツでも創り手の〈想い〉は届く

企画力のイメージ02

今日のウェブメディアのおもな役割は、ユーザーの悩みや課題を解決することにあります。つまり、コンテンツの〈企画〉を考える際には、「ユーザーが必要としている情報はなにか?」を徹底的にリサーチする必要があります。

このアプローチは、雑誌づくりにおける〈企画〉と本質的にちがいはありません。ただし、ウェブコンテンツでは、PVやコンバージョン率、KPIといったデータで「情報の価値」を具体的な数値でつかむことができます。その点は、雑誌メディアとは異なる、ウェブメディアならではの特長です。

その意味では、雑誌メディアとくらべてウェブメディアは、「価値のあるコンテンツ」をつくりやすいともいえます。

一方で、ウェブメディアにも課題はあります。たとえば、まだ世間に知られていない自社の存在や商品・サービスの価値をどう伝えるか? ユーザーが知らないのだから、キーワードで検索することはない。自社や自社の製品のブランディンが難しいのはそこに理由があります。

解決策はいくつかあると思いますが、雑誌づくりのノウハウを活かすなら、やはり「創り手の想い」をコンテンツに込めることも有効な方法のひとつでしょう。コンテンツそのものはデジタル、つまり無機質なものでも、その送り手と受け手は感情を持った〈人〉です。だから、〈想い〉は伝わるはず。〈想い〉が伝わる情報こそが、ユーザーの利益にもなるのです。

私の〈企画〉体験談

これまでのキャリアのなかで、〈企画者〉としてもっとも楽しかったのは、「日本のホラー映画特集」でした。「なんでもいいから企画を出して」と言われ、「なんでもいいなら」と自分の趣味であるホラー作品を紹介する企画を立てたのです。ちなみに、媒体は映画雑誌ではなくビジネスパーソン向けのアイテム雑誌でした。

もちろん、〈企画〉だけでなく、編集ライターとして、作品の選定から配給会社への連絡、監督へのインタビュー、イラストレーターへの依頼、デザイナーへの発注、記事の構成・執筆・校了まで、一連の作業を仕切りました。これはコンテンツ制作者冥利に尽きる仕事といえるでしょう。

「自分のやりたい・読みたい記事の企画を立てる」のは理想ではあります。けれども、“仕事(ビジネス)”となれば、いつも「やりたい」ものとはかぎりません。

たとえば、女の子向けのファッション雑誌に携わっていたことがあります。あきらかに自分自身は雑誌の読者層ではない。でも、“仕事”ならば「やる」しかありません。

自分は女の子でも、娘がいるわけでもない。そんな人間が〈企画〉を立てるのに必要なモノはなにか。考えて出た結論が〈想像力〉でした。現実の自分は“おじさん”だけれども、“ティーンの女の子”になったつもりで考えてみる。どんな記事を読みたいと思うか。記事を読んだあとどんな気持ちになり、どう行動したくなるか。

かりに自分が女性であったとしても、実際は「ティーンの女の子」ではない以上、多かれ少なかれ〈想像力〉を働かせる必要はあるはずです。

どんなジャンルの仕事にも対応できるよう〈想像力〉を鍛えること。今後も重要な課題となりそうです。